人民元レートは公式には管理変動相場制ですが、実際には1997年以降、ほぼ1ドル=8.28元の水準で推移し、実質的には対ドル固定レート制になっています。
近年、アメリカ対中国貿易赤字は拡大していて、2003年には全体の貿易赤字の23%を中国が占めています。
こうした米国対中貿易赤字の拡大を背景に、アメリカから人民元の切り上げ要求が高まってきています。
為替制度変更を求めるアメリカの圧力に対して、中国政府は 最初、国内金融インフラの未整備などを理由に消極的な態度だったのですが、最近ではやや前向きな発言が出てきています。
為替制度変更のスタンスを前向きに変更してきた背景には、1ドル=8.28元という固定レートを維持するためのドル買い介入によって中国の外貨準備が急増しています。
また、人民元切り上げ期待から中国への資金流入が増加しています。
その結果、中国の外貨準備高は急速な拡大をし、2004年3月末には前年比39.2%増の約4400億ドル(=約50兆円)と、過去最高水準となっています。
このことが中国国内の景気過熱の一因になっていることが、やっと認識され始めたからでしょう。
中国の外貨準備は、円高回避のために介入を続ける日本に次ぐテンポで増加しています。
図にすると下のようになります。
人民元切り上げ圧力と中国の景気過熱の関係
米国の対中貿易赤字拡大 = 中国の貿易黒字
↓ ↓
米国の人民元切り上げ論 → 元高圧力
↓ ↓
切り上げ期待 → ドル買い元売り介入(固定レート維持)
↓ ↓
中国への資本流入拡大 → 外貨準備の増加
↓
国内流動性の増加
↓
景気過熱 |
図のように外貨準備高の急増は、中国で国内流動性の拡大と景気の過熱をもたらしています。
それと同時に、急増した外貨準備の運用は、アメリカへの証券投資という形で運用されています。
海外からの対米証券投資の内の約10%は中国が占めており、中国の潤沢すぎる外貨準備は、アメリカの巨額の貯蓄不足を穴埋めする形で運用されています。
もし、人民元が20%切り上げされれば?
2003年のアメリカの貿易赤字は6%程度縮小していたことになります。
元切り上げ期待によって中国に流入していた資金の増加額が減少し、中国の対米投資も減少することが容易に予測できます。
これによって、海外からの資金フローに依存しているアメリカのファイナンス構造が維持できなくなると思われます。
その結果、貯蓄不足のアメリカは金利上昇に向かうでしょう。
金利が上昇すれば、お金は株式から貯金の方向に動くため、アメリカの株価は下落します。
※ここでは変動幅を20%として考えていますが、理論的に人民元が約20%安いと考えられているからです。
市場では、中国が今年中にとりあえず変動幅の5%拡大をするという見方が強いようです。
変動幅が5%では切り上げ期待はより大きくなって、外貨準備高の増加が考えられます。
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